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東京高等裁判所 昭和36年(く)12号 決定

少年 T(昭一六・一二・二六生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙抗告申立書記載のとおりである。

所論は原決定の処分が著しく不当であることを理由とするものであるが本件保護事件記録並びに少年調査記録を検討すると少年は高校中退後静岡市、浜松市内において新聞配達をしていたが、その内稼働意欲がなくなり勤先を逃げ出して昭和三十五年四月頃上京しバーテンとして住み込みその間やくざの浅草○○党一家に属し、バーの用心棒エロ映画エロショーの客引等をして数回に亘り軽犯罪法違反等により処罰されたことがあり、同年十二月静岡市に帰つたが、その後間もなく素行不良者と交友を始め、刑事未成年者Hを利用し同人をして静岡市内において窃盗をさせその賍品を処分していたものであり、本件非行事実もその数が多く且悪質なものと認められる。しかして少年の家庭は少年と遊離しており少年の監護には十分とは認められない。以上のように少年の反社会的性格の激化している点に鑑みると、この際少年を施設に収容し矯正教育を施すべきものとした原決定は所論のようにその処分が著しく不当なものとは云えないから、論旨は理由がない。

よつて少年法第三十三条により本件抗告を棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判長判事 坂井改造 判事 山本長次 判事 荒川省三)

抗告申立書

少年 T

右の者に対する賍物収受、同牙保、同寄蔵保護事件につき、昭和三十六年一月三十日静岡家庭裁判所が為した特別少年院送致決定は左記の理由により不服ですから抗告を申立てます

昭和三十六年二月二日

住所 静岡県駿東郡○○町××番地

右法定代理人父 F

同母 M

東京高等裁判所御中

理由

一、原決定の処分は著しく不当であります。

1 本少年は積極的に非行を為す意思がなく共犯H少年が窃取した物件を収受したもので意思の弱いのが原因しこれを拒否するということが出来なかつたのであります。

2 少年の非行は極めて軽微で収受等を為した物件は全部被害者に還付され非行は非行なるも何等の損害を与えておりません。

3 少年は昭和三十五年九月より同年十一月までの間に於てGという偽名で数回に亘り罰金刑に処せられた事実がありますが、よくこの非行の真相を調べました処、少年が東京都台東区浅草の「バー」に「バーテンダー」見習として稼働中同「バー」の用心棒をしておつたYに強要され、偽名を用い且つ犯行を為したもので、少年に積極的犯意のなかつたことが判明いたしました。

4 少年の家庭は父母共に健在であり父は建築業を営み中流の生活を為し少年を頭に四人の男児があり、少年の次弟は職業訓練所に次は中学校に末弟は小学校に通学し円満健全の家庭生活を営み嘗て犯罪者を出したことは無く十分保護能力を有し、更に同町内に居住する親族、○川○吉、同○佐○良の両名は現に保護司の任にあり、少年を引取り同居せしめ、職業を選定の上就職させ、監督指導して更生を計るとの申出あり、一方少年においても従来の非行に対し反省し改悛の情顕著なるものがありますので少年院に収容の必要認められず、在宅保護の御決定をいただくことが却つて効果的であると考えらる。

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